4月に入り、既に入社式を終えた方も多いのではないでしょうか。不安と希望でいっぱいのことと思います。
私も数年前の今頃、新人看護師としてやっと働ける嬉しさ半面、これからはひとりの医療従事者としてやっていけるのかという不安でいっぱいでした。実際、私は何度も「辞めたい。」と思ったことがあります。同期や後輩、仲のいい先輩もどんどん転職していきました。昨今は特に医療従事者の人手不足が問題視されているので、これは社会的問題とも言えます。
この記事は、新人看護師さんへの警鐘になるだけではありません。指導者や管理者の方にも知っていただき、職場の体制や新人看護師への待遇を考え直すきっかけになってほしいと思いました。
新人看護師の退職理由の1番、それはズバリ「自身の健康面の問題」です。えぇ、若いのに?!なんで?と思いますよね。元看護師が考察していきます。
看護師の退職理由
日本看護協会が発表した、退職したいと思っている看護師の理由の割合は以下の通りです。
- 1位 結婚(10.6%)
- 2位 転居(9.2%)
- 3位 子育て(8.1%)
- 4位 自分の健康※主に身体的理由(6.9%)
- 5位 看護職の他の職場への興味(6.9%)
このデータでは「結婚」「転居」「子育て」といった前向きな理由がBEST3を占めていることがわかります。
続いて、年齢階層別でみてみましょう。
24歳以下
- 1位 自分の健康※主に精神的理由(17.3%)
- 2位 自分の適性・能力への不安(15.0%)
25~34歳
- 1位 結婚(30.0%)
- 2位 転居(28.3%)
35~39歳
- 1位 妊娠・出産(16.0%)
- 2位 子育て(15.4%)
年齢階級別でみると、新人看護師の退職理由だけは精神的に追い込まれているということがわかりますね。https://www.nurse-center.net/nccs/scontents/sm01/SM010801_2_2020.html?20211102090000(日本看護協会:「2020(令和2)年度ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析報告書」より)
新人看護師が退職を考えてしまう状況とは
データ上では新人看護師が精神的につらくなってしまい、退職を考えることが多いとわかりました。では、実際にどのような場面で精神的なつらさを感じやすいのでしょうか。ここからは私の実際の体験をもとに考察いきます。
環境の変化
これは看護師に関わらず、新社会人なら誰でも直面し、絶対に避けては通れないものです。就職するというのは大きな環境の変化になります。中には就職のために引っ越しする方もいると思いますが、これも環境の変化のひとつですね。
1967年、心理学者のホームズとレイの発表した研究に「社会的再適応評価尺度」というものがあります。これは、人生で起こる43項目のライフイベントのストレス度合いを点数化し、その1年間の合計点数をみることで、起こりうる健康障害(身体・精神)予測できるというものです。
例えば「配偶者の死」100点、「離婚」73点、「結婚」50点、「妊娠」40点、「引っ越し」20点…といった具合です。残念ながら「就職」という項目はないのですが、近しいものとして「転職」36点、「就学・卒業」26点が参考になるかと思います。この点数が合計150点未満だと30%、150~299点だと50%、300点以上だと80%の割合で何らかの健康障害をきたす可能性があるといわれています。
「結婚」などのポジティブなライフイベントもストレスになるとは驚きです。「就職して、引っ越しして、すぐに結婚して子供も授かった。」という一見華やかな人生であっても、合計点数は136~146点になります。ここに細々としたストレスがかかると、あっという間に150点を超えそうですよね。
新社会人になってからの1年間は、誰でも心身の健康を損ないやすい環境にあるということです。私自身、新人看護師時代に「家族の死」や「家族の健康上の問題」などが重なり合計163点になったことがあります。その時はやはり不眠症になりました(涙)
ちなみに「社会的再適応評価尺度」とWEB検索すると、43項目が一覧表になっているサイトもありますので、興味のある方はぜひ検索してみてください♪
インシデントを起こしてしまわないかという不安、実際に起こしてしまう
インシデントとは、医療事故に至る前に対処できたトラブルのことを言います。対処できたといっても、患者さんの命に関わりかねなかったミスです。非常に怖いことなのです。
どんなに勉強していても、気を付けていても、看護師であれば1度はインシデントを経験するものです。初めてのインシデントはとても落ち込みますし、一気に自信を無くしてしまいます。また、疲れている時や業務に慣れてきた頃は、立て続けにインシデントを起こしてしまうこともあるので「私って看護師向いてないのかな。」と不安になります…。実際私も、そういう時に何度も転職という文字が頭をよぎりました。
元看護師が実際に起こしたインシデント
インシデントを起こした時が看護師の退職したくなる理由の一つとお話しましたが、ここで、私が実際に経験したエピソードを紹介したいと思います。
これは新人看護師として働き始めたばかりの頃のことです。60代女性、大腸癌術後数日目。自立していて身の回りのことは自分でできる方でした。お話好きな方で、永遠にお話が止まらず、新人看護師の私は、なかなかその場を切り上げられないでいました。担当医やベテラン看護師でさえお手上げ状態で、スタッフからは少し嫌煙されているようなお方でした。
私はその日女性を受け持ち、部屋の見回りをしており、「今日は捕まらないぞ。」と意気込んでお部屋に入りました。すると違和感に気づきます。いつものように話しかけて来ない…。このままそっとしておこうかとも思いましたが、なんだか胸騒ぎがして、閉められていたカーテンをそっと開けました。
すると女性は体をガタガタ大きく震わせ、ベッドの上でうずくまっています。顔色も悪く、苦しそうな顔をしています。私は駆け寄り「どうしましたか?!」と声を掛けました。すると女性は「寒い、痛い、寒いぃぃぃぃいい!!!」とお腹を押さえながら叫びました。しかも女性の体は信じられないくらい熱くなっていました。体温測定をすると40度を超えています。腹部は固く硬直し、何度も何度も嘔吐し始めました。
私は「もしかして腸閉塞を起こしたかな?」と思いました。なぜなら、女性は術後から「ちゃんと便が出ない。」という話をしていたからです。ですが、術後から看護師や担当医はそれを真に受けて聞いていませんでした。それは女性の性格上、かまってもらおうとしているだけだと全員が思い込んでいたのです。
大腸癌の術後は腸閉塞になるリスクが高くなります。そのため私は、過去に女性から「便が十分に出ていない。」という訴えを聞いた際に先輩看護師に相談したこともありました。しかし毎日少しは排便があったこと、腸蠕動音(腸の動く音)が確認できていたことなどから様子観察するように言われていました。
私は焦って、心臓がバクバク…。パニックになりながらも、急いで先輩看護師に報告し担当医を呼んで診察してもらうことにしました。すると担当医は「腸閉塞かもしれない、オーダー入れとくから今からお腹の写真撮っておいて!」といってまた仕事に戻ってしまいました。時間は日勤帯の勤務の終了間近で、先輩方は一番忙しい時。女性のそばには私しかいません。苦しむ女性を目の前にパニックになった私の思考は停止しました。
(あれ、ちょっと待って、今先生「お腹の写真を撮って」って言った…?腸閉塞の時って、普通レントゲンを撮るんじゃないの…?)
普通は「腹部のレントゲン写真」を撮るのが常識です。レントゲン室に女性を連れて行けばいいのです。きっと担当医の先生は、新人の私にわかりやすく「お腹の写真」という表現をしたのでしょう。しかしそれがかえって混乱を招きました。
私は必死にデジカメで女性のお腹の写真を撮影しました。しっかり360度、全方向からです(笑)
写真撮影しつつ、「本当にこれでいいのだろうか…。」と不安になる自分もいました。結局数分後に先輩に相談しに行き、怒られながらレントゲン室に連れて行ったのでした。その後女性は腸閉塞の診断を受けましたが、治療しすぐに軽快していきました。本当によかったです。
この出来事はインシデントというまでではないかもしれません。しかしスタッフ全員がその女性の訴えを真に受けていなかったことや、私がデジカメで写真を撮っていた数分のタイムロスによって、もっと怖い結果になっていたかもしれません。同期には未だに「デジカメ看護師」と笑われますが、とても学びになった出来事でした。
おわりに
新人看護師の退職理由について考察してみました。1番の理由はやはり、精神的に追い込まれてしまうことでした。他人の健康を手助けしたいと思って看護師になったのに、自分が健康を損ねてしまうというのは、何だか悲しいことです(涙)これから頑張る新人看護師さんや指導者・管理者の方の参考になれば幸いです。では、また次のブログで★